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2006.12.01 Friday 00:54
『グロテスク 上・下』 桐野 夏生
グロテスク〈上〉 桐野 夏生 グロテスク〈下〉 桐野 夏生 スイス人の父と日本人の母から生まれた”わたし”。 怪物的な美しさを持つ妹のユリコ。 幼い頃、全ての人間の視線を釘付けにした怪物のような美貌を持っていたユリコ。しかし30を越えたユリコは醜い売春婦となり、新宿の安アパートで殺された。 その1年後、”わたし”の同級生だった佐藤和恵が、ユリコと同じような状況で他殺体となって発見された。 ユリコの死は、中年の安い売春婦が殺されただけと注目を集めなかったけれど、和恵は昼間は有名企業に勤めており、夜は売春婦をしていたということで、世間の注目を集めた。 ”わたし”が語る”わたし”とその周囲の事、ユリコの日記、和恵の日記、そして二人を殺したとされるチャンの手記によって成り立っている本書。 読んでいて興奮する、楽しい気分になる本ではないです。 それどころか、気分は下降の一途。かなり滅入ります。 なんか、読むにつれて鬱々としてくる(^_^;) そして読み終わった後、この本には『グロテスク』以外の題名はないな・・・とぼんやり表紙を眺めてしまいました。 家でも学校でも社会でも、大なり小なりの階級があり、下から上を妬み見る。 そして無意識のうちに、上から下を蔑み見てしまうこともあると思う。 どこまでも付きまとう階級社会の中で生き、周りより抜きん出よう、上に這い上がろうとあがきつつも、階級差別に勝てず惨めな様をさらしてしまう・・・。 今の社会の現状が顕著に、そして露骨に書き出されています。 そして”わたし”達が通ったQ女子高も、社会の縮図が顕著に現れていて、お金を持っている、由緒正しい、そんな階級社会で成り立っています。 そんな学校に通いながら”わたし”は、階級社会なんて!お金と階級の上に胡坐をかくなんて醜い女達だ、と同級生に憤りを感じるのだけど、”わたし”自身も常に自己中心で自分が常に正しい、自分の欲望には忠実で人をなじることに快感を覚えてしまう。 己の醜さには、けして気がつかない”わたし”。そしてかわいそうな私を美化して、周りからの評価に目を向けない。 それは和恵も、チャンも同じで、己の醜さには気がつかない。 どうにかして良い様に見せようということしか、頭にないんです。 差別に憤りを感じていながらも、じつは自分が他人を差別している。 見下している。 そんな人物達が織り成す過去と現在の物語です。 あからさまに、露悪的にかかれているけど、これは誰もが持ってる心の一部なのかもしれません・・。 だから読んでいて痛いし辛い。 自分の醜い部分なんて出来れば見たくないから、私達だって現実を直視したくなくて逃げているだけのかもしれない・・・。 これは「東電OL殺人事件」という実際にあった事件を題材にしているそうです。 一流企業に勤務するエリート女性が、夜は売春婦をしていて殺された…という事件だそうで、これは和恵の設定になってます。 なぜその女性は売春婦などをしていたのか。 いったい何があったのか。 そんな心の闇の部分に踏み込んだのが、この『グロテスク』。 とにかくグロテスクな物語。 |
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